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経営学

【モチベーション理論とは】意味・代表的な理論からわかりやすく解説

モチベーション理論とは

モチベーション理論(Motivational theory)とは、「人や組織が行動を起こし、何らかの目標に向かうことを促す動機付け」1野村総合研究所(2008)『経営用語の基礎知識(第3版)』ダイヤモンド社 131頁に関する理論です。

経営学におけるモチベーション理論は、組織の労働者のモチベーション(ワーク・モチベーション)に着目している学説が多いです。

具体的には、モチベーションが労働者さらには組織の行動にどのような影響を与えるのか、また労働者のモチベーションを高めるためにはどのような対応が必要になるのかを明らかにすることが理論の主目的となっています。

このように、モチベーションとは、社員にとっての働き甲斐の源泉とも呼ばれるものであり、ひいては会社全体の業績や成果にも結びつくと考えられている重要なポイントです。

この記事では、

  • モチベーション理論の意味・必要とされる背景
  • 代表的なモチベーション理論

などをそれぞれ解説していきます。

好きな箇所から読み進めてください。

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1章:モチベーション理論とは

まず、1章ではモチベーション理論を概説します。2章では代表的なモチベーション理論を解説しますので、用途に沿って読み進めてください。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注2ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1:モチベーション理論の意味

経営学におけるワーク・モチベーションを考える上で、「人々はなぜ働かなければをならないのか」、あるいは「人々はなぜ働いているのか」という疑問はモチベーション理論の出発点とも言える議論です。

まず、「人々はなぜ働かなければならないのか」という疑問に対してはほとんどの方が「生活を営むため」または「生きていくため」という回答を思いつくことでしょう。とりわけ貨幣経済においては、金銭の獲得こそが個人の生活の質を大きく左右する要因です。

一般的に、所有する金銭が多ければ不自由のない豊かな生活を送ることができ、逆に所有する金銭が少なければ不自由の多い生活になってしまうと考えられています。ゆえに、仕事をするうえで「金銭の獲得」は人々を労働に導く重大な作用を果たしていると考えることができます。

モチベーション理論では、金銭のように人々の働くモチベーションを高める外的要因を「インセンティブ」と呼びます。

では次に、「人々はなぜ働いているのか」という疑問はどのように考えるのがよいでしょうか?もちろん、上と同じように「生活を営むため」または「生きていくため」というのは当然に考えられる回答です。

ともすれば、人々は「金銭の獲得」のみを目的として仕事をしているのでしょうか?この疑問を考えるうえで、厚生労働省(2008)が示した労働者の仕事の満足度を項目別にわけたグラフを見てみましょう。

仕事の満足度図1 仕事の満足度(主要項目別)3厚生労働省『労働白書 -第2章働く人の意識と就業行動-』81頁

図1をみると、金銭の獲得にあたる「収入の増加」や「雇用の安定」が労働者の仕事へのインセンティブとして、大きい役割を果たしているとは考えにくい結果が示されています。

代わりに、「休暇の取りやすさ」「仕事のやりがい」といった必ずしも金銭的な欲求に直結しない項目が、仕事の満足度に大きな影響を与えていることは明白となっています。この事実は人々のモチベーションを考える上でとても重要な考え方となります。

モチベーション理論では、国や性別、宗教、年齢、社会階層などの社会的カテゴリーや個人による違いはあるものの、万人に適用できる一定の要件が存在するという理論的な前提に立っています。

たとえば、上にあげた「金銭の獲得」について多少の価値観の違いはあっても、より多くの報酬をもらえることは万人に共通する労働に対するインセンティブである言えます。

もちろん、すべてのケースで理論通りにモチベーションが向上するわけではありませんが、組織というさまざまな価値観を持った不特定多数の人間が集まる集団から生まれる成果を最大限にするために、モチベーション理論は日々世界中で研究が進められています。



1-2:モチベーション理論が必要とされる背景

モチベーション理論が必要とされる背景には、労働者のモチベーションの高さが組織のパフォーマンスを高めるという実証データがさまざまな場面で示されていることにあります。

たとえば、世界約60カ国で「働きがい」に関する調査・分析をおこなっている専門機関であるGreat Place to Work(GPTW)は、以下のような調査結果を提示しています4Great Place to Work「『働き方改革』で業績は向上するのか? ~”働きやすさ”、”やりがい”と業績の関係~」 

  • 「働きがいのある会社」はそうでない会社に比べて売上の対前年伸び率が高い結果となっていることを明らかになっている
  • 従業員の「働きがい」が業績向上と直接的な関係があるという研究結果を公表している

また、1980年代前半以前のアメリカにおいて売り上げを大きく伸ばし、優れた環境適応力を示した超優良企業(エクセレント・カンパニー)の特長を明らかにした名著『エクセレント・カンパニー』では、次のような主張がされています5T・J・ピーターズ R・H・ウォータマン 大前研一訳(1983)『エクセレント・カンパニー』 講談社 47頁

  • エクセレント・カンパニーのひとつの条件として「ヒトを通じての生産性向上」が不可欠であること
  • ごく末端にいる一般社員を、品質および生産性向上の源泉のように扱っている企業は高い業績をあげていた

このようにヒトの働き方と業績には深い関係性があることが指摘されています。

モチベーションに関する様々な研究を紹介している『モチベーション3.0』は読みやすく、広い研究が紹介されているためおすすめです。

組織が優れた成果を生み出すために従業員も一人ひとりのモチベーションを高めることは、もはや企業経営における常識とも言える事実であり、決して無視できない大事な要因であると考えられているのです。

1章のまとめ
  • モチベーション理論とは、「人や組織が行動を起こし、何らかの目標に向かうことを促す動機付け」6野村総合研究所(2008)『経営用語の基礎知識(第3版)』ダイヤモンド社 131頁に関する理論である
  • モチベーション理論には、万人に適用できる一定の要件が存在するという理論的な前提がある

 

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2章:代表的なモチベーション理論

さて、2章では代表的なモチベーション理論を紹介していきます。

2-1:マズローの欲求階層説

モチベーション理論のなかでも、どの教科書や参考書でもはじめに取り上げられていると言ってもよいのがアブラハム・マズローの「欲求階層説」です。

まず、マズローはなにかをしたいという人間の欲求を、次の5つのステージに分類しています(図2)。

マズローの欲求階層図2 マズローの欲求階層7須田敏子(2018)『組織行動 -理論と実践-』NTT出版 41頁

  1. 生理的欲求・・・空腹や渇きなど、衣食住に関する基本的な肉体欲求であり、人間のもっとも根源的な肉体的な欲求
  2. 安全的欲求・・・安定や秩序を得たい、または恐怖や不安から自由になりたいという自信の安全に対する欲求
  3. 社会的欲求・・・愛情、所属意識、友情など社会的なコミュニティに対する欲求
  4. 自尊的欲求・・・自尊心、自律性、達成感などの内的な要因に加え、地位や表彰、権力など外的な要因を含めた心理的な欲求
  5. 自己実現的欲求・・・成長したい、自己実現したい、夢を叶えたいなど心理的ななかでも高次元な欲求

これら5つの欲求は階層化されており、まず生理的欲求のような低次の欲求が発生し、その欲求がある程度満たされることで次の欲求が現れます。

たとえば、社会的欲求が生まれるためには、低次に位置する生理的欲求と安全的欲求がある程度満たされている必要があり、社会的欲求が満たされなければ上位の2つの欲求は生まれないとされています。

このマズローの欲求階層説は学術的な詳細を知らなくても、実感として理解できる理論であることからモチベーション理論を代表する学説として広く知られています。

一方で、それぞれの欲求段階の強さは個人差も大きく、人によっては低次の欲求が著しく小さく、高次の欲求が大きくなったりするケースがあることも知られています。

たとえば、自らの安全を脅かしてまで過酷な山登りに挑む登山家などは、このマズローの欲求階層説に反した行動傾向があると考えることができます。

2-2:アルダファーのESG理論

次に紹介するのが、クレイトン・アルダファーが提唱した「ERG理論」です。ESG理論は、マズローの欲求階層説を生存欲求、人間関係欲求、成長欲求の3つに再分類したものです。欲求階層説とはそれぞれ図3のような対応関係になっています。

欲求階層説とESG理論図3 欲求階層説とESG理論8須田敏子(2018)『組織行動 -理論と実践-』NTT出版 43頁

  1. 生存欲求・・・食べる、飲む、眠るなどの生理的欲求に加え、職場の物理的環境や金銭的待遇など、適切な生活環境を含んだ欲求
  2. 関係欲求・・・他社との関係を持ちたいという欲求であり、この欲求には良好な人間関係だけなく、ライベル関係や敵対関係といった幅広い人間関係が含まれている
  3. 成長欲求・・・能力を最大限に発揮したい、能力を開発したいと、なにかを達成したいという高次の欲求

ERG理論と欲求階層論の最も大きな違いは、欲求の逆行性について触れられている点にあると言えます。

欲求階層説では欲求とは低次の欲求が満たされることで、より高次の欲求が生まれると考えられていましたが、ESG理論では、人間は上位の欲求が満たされないと、その欲求を補うかのように低次の欲求が高まることを指摘しています。

つまり、それぞれ3つの欲求は相対関係にあり、それぞれの欲求がどれくらい重要であるかの比重は必ずしも絶対的ではないです。その時々の3つの欲求段階の充実度によって変化することを示しました。



2-3:ハーズバーグの二要因理論

マズローとアルダファーが人間の欲求の階層化を試みたのに対して、労働者の職務満足の要因を具体的なインタビューをもとに研究したのがフレデリック・ハーズバーグです。

ハーズバークはインタビューを通じて、労働者のこれまでの仕事経験においてよかったと感じた要因と、悪かったと感じた要因を分類し、それぞれがモチベーションにどのような影響を与えるかをまとめた「二要因理論」を発表しました。具体的な研究は以下のとおりです。

  • ハーズバークは、労働者がよい感情をもった時に登場した要因を「動機付け要因」、悪い感情を持った時に登場した要因を「衛生要因」とそれぞれ命名した
  • そして、動機付け要因は満たされれば職務満足とワーク・モチベーションは向上するが、満たされなくても職務満足やワーク・モチベーションは低下することはないことを指摘した
  • 一方で、衛生要因は満たされなければ不満足を感じ、ワーク・モチベーションは低下するが、満たされてもワーク・モチベーションの向上には繋がらないという2つの要因の特性の違いを明らかにした

さらにハーズバーグは、動機付け要因の内容には、仕事の達成感や責任、自己成長など仕事そのものに起因した内的要因が多いのに対して、衛生要因の内容には、賃金や上司との人間関係、職場環境など仕事を取り巻く外的要因が多く含まれることも明らかにしました(図4)。

動機付け要因と衛星要因の比較図4 動機付け要因と衛星要因の比較9須田敏子(2018)『組織行動 -理論と実践-』NTT出版 46頁

ハーズバーグの二要因理論は、実務家の間では労働者に対してアピールしやすい理論として広く受け入れられ、いまでもマネージャー研修などで取り上げられる理論として知られています。

一方で、専門家の間では、調査が労働者の主観的な意見となりやすいインタビュー調査のみを通じて実施されていること、また職務満足と実際の職務のパフォーマンスの関連性までに言及されていないなどの理由から、二要因理論の妥当性は小さいとの意見もよく見られます。

2-4:マクレガーのX理論・Y理論

最後に、人間の2つの相反する労働観を示したダグラス・マクレガーの「X理論・Y理論」を紹介します。「X理論・Y理論」を理解するためにまずは、それぞれXとYと名付けられた2つの相反する労働観を正しく理解する必要があります。

X理論

  • X理論とは、人間は生来仕事嫌いで、責任を回避し、自らの安全を第一に望んでいるとみなす労働観である
  • X理論に基づく労働者のマネジメントには、強制や命令、処罰といった抑圧的な対処が必要であると考える

Y理論

  • Y理論とは、人間は生来、仕事嫌いではなく、自ら進んで自分が備えている能力や可能性を発揮したいと考える労働観である
  • Y理論に基づく労働者のマネジメントには、権限移譲や能力開発などといった自我欲求や自己実現を認めていくような対処が必要であると考える

マクレガーはX理論・Y理論の優劣は明らかにしておらず、すべての人間はこの2つを内包した労働観を有しており、どちらの特性も反映したマネジメントスタイルを構築する必要性を主張しました。

しかし、組織のモチベーションを高めるという観点からはY理論に基づく対処が重要であることも同時に指摘しており、基本的にはY理論に基づくマネジメントスタイルを構築しつつも、X理論に対処した仕組みを取り入れることが大事であると結論づけています。

具体的には、Y理論的に仕事と職場の目的は明確にしつつも部下に運用の権限を与え、職場でのX理論的行為は許されないという信頼関係をベースにマネジメントの仕組みを構築することが望ましいと提唱しています。

2章のまとめ
  • マズローは欲求階層説を提示した後、アルダファーはマズローの理論を「ERG理論」として再分類した
  • ハーズバーグは労働者の職務満足の要因を具体的なインタビューをもとに研究した
  • マクレガーは「X理論・Y理論」をもとに、組織のモチベーションを高める研究をした

 

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3章:モチベーション理論について学べる本

モチベーション理論に関して理解を深めることはできましたか?

以下では、モチベーション理論に関する解説本を紹介しています。ぜひ手に取って読んでみてください。

おすすめ書籍

須田敏子『組織行動:理論と実践』(NTT出版)

組織行動論について全般的な内容がまとめられた教科書的な1冊です。学生や研究者だけでなく実務家でも読めるような実践的な内容となっており、幅広い方におすすめできる1冊です。

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T・J・ピーターズ R・H・ウォータマン 『エクセレント・カンパニー』 (講談社)

企業の組織文化に関する世界的な名著です。モチベーション理論の内容に直接触れるものではないですが、部下を持つ管理職の人であればぜひ読んでおきたい1冊です。

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まとめ

最後にこの記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • モチベーション理論とは、「人や組織が行動を起こし、何らかの目標に向かうことを促す動機付け」10野村総合研究所(2008)『経営用語の基礎知識(第3版)』ダイヤモンド社 131頁に関する理論である
  • モチベーション理論には、万人に適用できる一定の要件が存在するという理論的な前提がある
  • 代表的なモチベーション理論にマズローの欲求階層説がある

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