当メディア「リベラルアーツガイド」は2019年5月の運営開始以来、学術的内容の記事を400記事以上更新し、2020年5月の月間PV(閲覧数)は30万PVを超えました。累計のPVは、300万PVを超えています。
当メディアは「わかりやすいこと」と「正確であること」を目指して、学問に興味を持った方をより深い学びに導くことを目的としています。ここでは、このようなメディアを運営するようになったきっかけと、運営理念について説明します。
結論を先取りすれば、このメディアは人文科学・社会科学の学びや実践を楽しむ人が増え、また人文科学・社会科学の領域を支える人が一人でも増えてほしい、という想いから運営しています。
※人文社会科学系の分野は多くの場合、諸説があり意見が別れている場合も多いです。そのため、当サイトは「正しいことを教える」というスタンスではなく、あくまで学問の最初の一歩として活用していただくことを目的に運営しています。
人文社会科学系学問の厳しい現状
近年の日本では、いわゆる文系と言われる人文科学・社会科学系の学問への風当たりが良くありません。
大学院を修了し、修士、博士の学位をとったけれど、大学にポストがなく非正規雇用で食いつなぎながらポストが空くのを待つ「高学歴ワーキングプア」の問題は、わざわざここで指摘するまでもありません。多くのメディアで報道されており、中には九州大学で焼身自殺した例のような、悲劇的な事例すらあります。
いわゆる文系学問への危機感は、こうした報道だけではなく、私自身が見聞きしたことにも基づいています。私自身、学生時代にお世話になった教授から「立場的に博士に進んでほしいと言いたいが、この業界の将来はよくない。他に就職先があるなら就職した方が食べていける。」といったことを言われたことがあります。
また、私の周囲で博士課程に残っている多くの人は、多かれ少なかれ将来に対する不安を抱えています。少なくとも、日本の大学院に普通に進んで博士号を取れば、普通に大学に就職できるはずだ、と楽観的に考えている人は皆無でしょう。
学問の将来
問題は、こうした人文社会科学系の現状にとどまりません。
日本の高齢化は今後さらに進み、財政における社会保障関連費はまず間違いなく伸び続けていくでしょう。そして、日本の国家の収入(つまり税収や社会保険料)は、少子化、人口減少によって減ることはあれど増えることはないはずです(もし増えることがあるとしたら、それは私たちが支払う税金や社会保険料が増額するということです)。
つまり、急速に経済成長して財政が改善されることでもなければ、国家の社会保障関連費の負担は増え続け、それが大学・教育への支出にも影響するであろうと考えられるのです。
したがって、現在すでに苦しい状況に陥っている人文社会科学系の学問の世界は、改善される期待も薄いと言えるでしょう。
人文社会科学系学問の価値
しかし、すぐに社会にとって「役に立つ」理工系の学問だけでなく、人文社会科学系の学問にも大きな価値があります。
社会学者の吉見俊哉が『「文系学部廃止」の衝撃』で提示した例を紹介しましょう。文系と理系は、以下のように異なる次元で「役に立つ」と考えてみてください。
- 理系(目的遂行型)・・・目的がすでに設定されていて、その目的を実現するために役に立つ(東京ー大阪間を最も速く行くにはどのような技術が必要か?)
- 文系(価値創造型)・・・その目的自体を支える価値観を再考したり、創造したりする実践(東京ー大阪間を最も速く行く「目的」は、そもそもなぜ必要なのか?)
ある目的に対して最も合理的なアプローチが得意な理系は必要です。しかし、その目的自体が変わったとき、その価値観が変わったとき、合理的なアプローチは役に立たなくなります。そして、私たちは知っています、社会の目的や価値観は必ず変化することを。
一つの価値観にのめり込んでしまえば、それが変化したとき全く対応できなくなってしまいます。だからこそ、既存の価値観を自明視せず、一定の距離を保ちながら批判していくことが必要なのです。
そこから生まれる多元的な価値観こそが、文系の「役に立つ」強みではないでしょうか。
これは、人文社会科学という分野の役割のほんの一部にしか過ぎません。
実用的であること、お金を稼げること、社会を便利にすることといった分かりやすい評価軸で評価できる学問の意義は、広く認知されていると思います。
しかし、こうした分かりやすい評価軸で評価できない学問にも、大きな価値があるのです。
文系学問は誰が支えるのか
「人文社会科学系の学問にも価値があるとしても、財政が苦しくなる日本では、経済に繋がりやすい理工系の学問に投資すべきだろう」
このような意見にも一理あります。実際、政府に対して「もっと文系学問を大事にしようよ」と主張した所で、現実的には抜本的な対策は難しいと思われます。
前置きが長くなってしまいましたが、こうした現状認識から、私は、文系学問は社会にもっと開かれたものになり、よりたくさんの人がその価値を認識し、多くの人から支えられるものになっていくべきではないかと考えています。
現在、多くの人は大学で勉強をして(もしくは大学に入学した時点でまじめに勉強せず)そのまま社会に出て、学問に触れる機会が少ないまま社会人生活を送っているのではないでしょうか。
もちろんそうした生き方を否定するわけではありませんが、現在は学問の世界と一般社会とに必要以上に溝があるように感じます。
しかし、そもそも学問はそのようにクローズドなものである必要はありません。
もちろん大学で専門的に研究する研究者は必要ですが、彼らだけでなく在野で個人的に研究をする人も増えて良いと思いますし、もっと楽なスタンスで学ぶことを楽しむ人が増えても良いと思います。また、そうした人々の中から、さまざまな形で学問を支える人が増えていったらもっと良いと思います(最近では研究へのクラウドファウンディングも徐々に広まっていますね)。
つまり、(主に人文社会科学系の)学問の価値を理解し、学び、支える人をもっと増やしたい。そのために、学問の入り口を広く、ハードルを低くし、より深い学びへと導きたい。
「リベラルアーツガイド」は、そんな想いをもって運営しているメディアなのです。
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