アニミズム(animism)とは、人間、動物、植物、天体などの万物に霊魂が宿るとする信仰です。人類学者のタイラーが提唱したもので、彼はアニミズムを宗教の最も原初的な形態と考えました。
タイラーの主張により現代でもアニミズムが宗教の原初的形態と紹介するサイトが多いです。しかし、科学的な非実証性からタイラーの主張が否定されることに触れているものは少ないのではないでしょうか。
そこで、この記事では、
- アニミズムの意味
- アニミズムの特徴
- アニミズムの具体例
- 現在のアニミズム
をそれぞれ解説していきます。
好きな箇所から読み進めてください。
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1章:アニミズムとは
1章ではタイラーの主張から出発し、アニミズムの特徴を続けて解説します。
このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。
1-1: アニミズムの意味
エドワード・バーネット・タイラー(Edward Burnett Tylor 1832年 – 1917年)
冒頭で述べたように、アニミズムは人類学者のタイラーによって提唱されたものです。宗教研究に関心をもったタイラーは、近代人類学の祖としても知られています。
タイラーが提唱した概念はアニミズムの他に、「類感呪術」、「交叉イトコ婚」「テクノ二ミー」があり、これらの分析概念は今でも有効性があると評価されています。
1-1-1: アニミズムとタイラー
さて、数々の功績を残したタイラーですが、最も有名なのは『原始文化』(1871)です。『原始文化』において、タイラーは人類規模での宗教の比較研究を試み、そのなかで「アニミズム」を提唱しました。
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ここで必ず知っておかなければならない点は、以下の点です。
- タイラーは宗教の原初的形態を「霊的存在への信仰」と考えたこと
- そのような「原初的宗教」の特徴を表すのに、「アニミズム」という言葉が用いられたこと
タイラーのいう霊的存在とは、
- 霊魂
- 死霊
- 精霊
- 霊鬼
- 神
など多様な存在を指します。
そして、大事なのはタイラーが進化論的人類学者だったとことです。これは彼の宗教観に、次のような影響を与えています。
- 進化論的人類学とは、「未開→野蛮→文明」への社会が単線的に段階的に進化すると捉えるもの。19世紀後半から20世紀に初頭にかけて、支配的だった人類学
- タイラーは「アニミズム→多神教→一神教」に宗教形態は進化するという宗教観をもっていた
あなたも聞いたことがあるかもしれませんが、進化論的な考えは現在では否定されています。その最大の理由は「すべての社会が同じ歴史段階を経て直接的に発展すると断定することは、間違いである」からです。
そういった意味で、進化論的人類学者であったタイラーの「アニミズムは宗教の原始的形態である」という主張が、今日否定されるのは不思議なことではないでしょう。
- 社会進化論…人間の社会が進歩的に発展していくと考える思想について、詳しくは次の記事を参照ください。→【社会進化論とはなにか】の記事
- 文化相対主義…社会進化論を激しく批判したのは文化相対主義という思想。この思想について、詳しくは次の記事を参照ください。→【文化相対主義とはなにか】の記事
そもそも、タイラーの理論は単に憶測にすぎないという批判があります。たしかに、タイラーは「原始人」に代わって想像を膨らませただけで、霊魂が神に発展する必然性はなにもないのです。
さらに詳しくタイラーへの批判を知りたい方は、人類学者エヴァンス・プリチャードの『宗教人類学の基礎理論』を参照ください。
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いずれにせよ、タイラーの主張は現在否定されます。とはいえど、アニミズムという概念を用いてキリスト教的な宗教概念を拡大し、人類規模での宗教の比較研究をおこなったタイラーの功績を忘れるべきではないでしょう。
1-2: アニミズムの特徴
アニミズムを支える特徴は、「唯心論的世界観」と「アニミズムと残存」にあります。それぞれ解説していきます。
1-2-1: 唯心論的世界観
アニミズムは唯心論的世界観によって成立しています。
唯心論的世界観とは、
- 霊的存在が物体に生気と動きを与える
- 世界は物体的身体を持たず、目に見えない霊的存在によって説明される
ことです。
加えて、アニミズム的な世界において、
- 人間は身体と霊魂からなる
- 霊魂は自由に身体を出入りすることができる
と考えられています。
たとえば、アニミズム的な思考では、次のような説明がされます。
- 夢を見ることや病気を患うことは身体から霊魂が抜けた状態である
- このように分離した霊魂を取り戻すとき、儀礼が必要となる
- 死者は霊魂が永遠に身体を離れたことを意味する
私たちは上記のような困難や出来事に直面にしたとき、科学に説明を求めますから、アニミズム的な説明に違和感を感じるかもしれません。
しかし、科学的な説明は決して普遍性があるわけではなく、霊的な存在にその説明を求める社会もあるのです。この点を安直に乗り越えるべきではありません。
霊界との交流を通じて治療する行為やそのような信仰を指す「シャーマニズム」とアニミズムは混同されがちですから、しっかり理解し区別する必要があります→【シャーマニズムとはなにか】の記事
1-2-2: アニミズムと残存
さて、タイラーは「アニミズム」と「残存」という概念を用いて、世界中のさまざまな儀礼や宗教を分析しました。
そもそも、なぜタイラーがアニミズムを人間の原初的な宗教形態と考えたのでしょうか?それはタイラーに次のような考えがあったからです。
タイラーの考え方
- 人間は夢、憑依、生と死といった理解不可能な経験に直面する
- 未開人の思想家は、これらの経験は霊魂の存在がなければ説明がつかないとして、霊魂の存在を想定した
- この考え方から、万物に霊魂が宿るというアニミズムが登場した
繰り返しますが、タイラーによると、人間の宗教形態は「アニミズム→多神教→一神教」へと進化してきました。
もし人間の文化が共通の基層から出発したとするならば、一神教の文明世界にもアニミズム的な要素はある、とタイラーは考えたのです。これが「残存」です。
タイラーによると、
- 基層的な人間文化の要素は高度な文明社会において、変形しているものの、迷信や俗信といったかたちで「残存」している
- それならば、「未開」と考えられる社会における文化現象は、文明社会にも観察することができる
この考えをもったタイラーは宗教的慣習や習俗を集めた一覧表をつくり、世界中の宗教的実践の比較研究をしたのです。
いったん、これまでの内容をまとめます。
- アニミズムとは、人間、動物、植物、天体などの万物に霊魂が宿るとする信仰
- 進化論的人類学者だったタイラーは、アニミズムを人間の原始的形態と主張した
- タイラーは「アニミズム」と「残存」という概念を用いて、宗教的慣習や習俗を集めた一覧表をつくり、世界中の宗教的実践の比較研究をした
2章:アニミズムの具体例
さて、2章ではアニミズムの具体例をみていきましょう。アニミズムの代表的な事例を紹介した後、まとめとして現在のアニミズム論を概観します。
2-1: インドネシアにおけるアニミズムの事例
まずここでは、インドネシアスラウェシ島のトラジャのアニミズムを紹介します。
2-1-1: トラジャにおけるボンボ
スラウェシ島のトラジャにおいて、身体を失った霊魂を「ボンボ」と呼びます。ボンボは人間に災いをもたらしたり、幸福をもたらす存在です。
トラジャにおけるボンボ
- ボンボは正しく祭らないと、人びとを苦しめる災いとなる
- たとえば、ある少女の腹痛が治らないことは、祖母のボンボがその少女の体内に入り込んで腹痛を起こしていると説明される
- その理由は祖母のボンボを正しく祭る前に、少女の父親がキリスト教に改宗したためである
- 正しく祭ることで、祖母のボンボは天に昇り「神」となるが、これは理想的な場合である
この事例からもわかるように、霊的存在が人間社会における出来事を説明するために用いられています。そして、霊的存在がもたらす災いを解消するために用いられる手段は「葬送儀礼」です。
2-1-2: 葬送儀礼とは
1章で説明したアニミズム的思考を振り返ると、人間は身体と霊魂からなります。スラウェシ島のトラジャでもそうであるように、多くの社会において、死は身体に関わるもので、霊魂には影響しないと考えられています。
すると、身体という容器を失った霊魂はどうなるのでしょうか?
- 多くの社会では死によって身体を失った霊魂は、他の人間や事物に取り憑き、病気や事故などの災いを引き起こす
- そのため、危険となった霊魂を慰め、墓や祭壇なの宗教的道具に霊魂を縛り付ける必要がでてくる
こうして、葬送儀礼が必要となるのです。
ちなみに、死者の霊魂によって最も影響を受けるのは故人の親族です。死者の親族が喪に服すのはそのためです。
2-2: 神道の事例
さて、日本社会では「神道」とアニミズムが結びつけ語れる場合があります。
そもそも、広義に、神道とは、
日本で古来から信仰されてきた原始的信仰が、外来宗教である仏教や儒教の影響を受けて変質し、日本人の慣習や天皇の祭祀など、さまざまな形に展開したもの
を意味します。
そして、神道とアニミズムとが結びつけられる場合、
- 社会が狩猟中心から農耕中心に移行したとき、トップの指導者が必要になる
- 豊作を願う「ムラ」「クニ」の指導者によって、共同体での祭りが行われるようになる
といったコンテキストにおいてです。
この歴史的なコンテキストにおいて、万物には霊魂が宿ると考え、それを畏怖しあがめる信仰が登場したと考えられており、それがアニミズムと呼ばれます。
また、八百万の神が存在するという神道ではあらゆる自然や一族の先祖、社会に大きな貢献をした特定の人物、怨霊などさまざまな「神」が存在する、と考えられています。これらの神をアニミズムという言葉で説明する場合があります。
神道については、次の記事で詳しく解説しています。ぜひ参照ください。
2-3: アニミズム論の現在
さて、タイラーのアニミズム論は後の研究者によって修正がされます。そのなかで最も有名なのは、ロバート・マレットによる「マナイズム(manaism)」です。
マレットのマナイズムとは、
- 擬人化されない超自然的な力を信仰する段階は、アニミズム以前にもあると主張したもの
- 語源はメラネシア一帯でモノに宿る呪的な力を意味する「マナ(mana)」にある
- しばしば、「プレアニミズム(pre-animism)」と呼ばれるもの
です。
お分かりのとおり、マナイズムも進化論的前提に立脚しています。そういった意味で、アニミズムと同様に、現在人類学において、マナイズム論を真剣に議論することは多くありません。
むしろ、重要なのは曖昧で包括的な意味を含むようになった「アニミズム」という用語の批判的な再定義が必要であることです。日常用語としても学術用語としても、拡大適応される過程で雑多な意味が入り込み、捉えどころのない用語となってしまっているからです。
これまでの内容をまとめます。
- 神道の文脈において、万物には霊魂が宿ると考え、それを畏怖しあがめる信仰が登場したと考えられており、それがアニミズムと呼ばれる
- 現在必要とされるのは、曖昧で包括的な意味を含むようになった「アニミズム」という用語の批判的な再定義が必要であること
3章:アニミズムを学ぶための書籍
アニミズムに関して理解を深めることはできましたか?
まず、何よりも文化人類学という学問自体に興味をもった場合は、こちら記事を参照ください。さまざまな書籍の良い点と悪い点を解説しながら、紹介しています。
https://liberal-arts-guide.com/cultural-anthropology-books/
以下、アニミズムに関する専門書です。
エドワード・バーネット タイラー『原始文化』(国書刊行会)
アニミズムを学ぶためには、まずタイラーの議論をしっかりと理解することです。この議論を土台にして、さまざまな事例に触れてみてください。
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内堀 基光/山下 晋司『死の人類学』(講談社)
人間社会と死との関係を議論した書籍です。アニミズム的な宗教実践に興味ある方は読みたい本です。
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一部の書籍は「耳で読む」こともできます。通勤・通学中の時間も勉強に使えるようになるため、おすすめです。
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まとめ
この記事の内容をまとめます。
- アニミズムとは、人間、動物、植物、天体などの万物に霊魂が宿るとする信仰
- 進化論的人類学者だったタイラーは、アニミズムを人間の原始的形態と主張した
- 現在必要とされるのは、曖昧で包括的な意味を含むようになった「アニミズム」という用語の批判的な再定義が必要であること
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