構造言語学

【構造言語学とは】ソシュールの言語学とともにわかりやすく解説

構造言語学とはなにか

構造言語学(structural linguistics)とは、言語構造や体系を重要と考える言語学の立場で、「近代言語学の父」といわれるフェルディナン・ド・ソシュールの言語学から大きな影響を受けています。

「難解に違いない」と思う方が多いかもしれませんが、ソシュールの問題意識を共有することですんなりと理解できるはずです。

さらに、現代思想の始まりといわれる「構造主義」を学ぼうとする方に、ソシュールの言語学は必須ですから学ぶ価値はあります。

そこで、この記事では、

  • 構造言語学の特徴
  • 近代言語学の父であるソシュールの言語学
  • 構造言語学(ソシュール)と構造主義の関係

を順番にわかりやすく解説します。

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1章: 構造言語学とはなにか?

それではさっそく、構造言語学の特徴やその提唱者のソシュールについて解説していきます。ソシュールの言語学を知りたい方は、2章から読み進めてください。

さて、冒頭の定義を繰り返しますが、構造言語学とは、

言語の構造または体系を研究する言語学の立場

のことです。

言語を構造として理解する立場は、この記事で紹介するソシュールに強く影響を受けています(他にアメリカの先住民を研究した米国の構造言語学もあります)。

構造言語学の定義的な説明では理解が深まりませんので、これまでの言語学とソシュールの言語学を比較しましょう。

このサイトでは複数の文献を参照して、記事を執筆しています。参照・引用箇所は注1ここに参照情報を入れますを入れていますので、クリックして参考にしてください。

1-1: 近代言語学の父:ソシュール

ソシュールの言語学を比較する前に、まず彼の伝記的情報を紹介します。ソシュールはジュネーブ大学で言語学を教えた先生です。代々続いた名家の出で、早熟の言語学者だったそうです。

ソシュールを世界的に有名な学者にしたのは、彼の講義をまとめた『一般言語学講義』(1916年)という本です。この本はソシュールの死後、彼の学生が講義をまとめたものです。

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『一般言語学講義』に影響されていない言語学者はおそらくこの世にいません。そういった意味で、20世紀の言語学はソシュールから出発しています。近代言語学の父といわれるのはそのためです。

では、ソシュールの言語学のなにが新しかったのでしょうか?



1-2: 構造言語学の特徴

これまでの言語学とソシュールの言語学を比較してみましょう。

ソシュール以前の言語学は、以下のような特徴がありました。

  • 各国語がどういうふうに変化してきたのか?という歴史的な変遷を研究
  • 言語の歴史的変遷を扱う研究は、客観的・実証的でありうる

ソシュールは、彼以前の言語学を否定したわけではありません。ただ、ソシュールは言語の歴史的変遷を扱う研究に満足しませんでした。

ソシュールは、次のようなことを思い始めます2『はじめての構造主義』(1988)を参照

人間はことばを喋る。人間と言語とは、切ってもきれない関係にある。この事実をしっかり受けとめ、それにふさわしい解明を与えるのが、言語学の任務じゃないのか?それをしないで、やれ巻き舌音がどうなったとか、こっちの子音があっちの子音に変化していったとを研究していても、なにがわかるんだろう。

つまり、人間と言語の深い関係を解明しようと考えたのです。人間と言語の深い関係を解明しようとする学問を言語学といおうじゃないか、と彼は考えていました。

「では一体、ソシュールはどんな研究をしたんだ?」とお思いでしょう。2章からはソシュールの言語学を解説します。

ちなみに、社会学者の橋爪大三郎は『はじめての構造主義』 (講談社現代新書) で、ソシュールの経歴から研究内容までわかりやすく解説しています。

構造主義について解説しており、ソシュールの言語学とともに学びたい人にはぴったりの一冊です。この記事でも多くを参照しています。

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1章のまとめ
  • 構造言語学とは、言語構造や体系を重要と考える言語学の立場でである
  • ソシュールは、人間と言語の深い関係を解明しようとする学問を言語学として想定した

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2章: ソシュールの構造言語学をわかりやすく解説

それでは、さっそくソシュールの言語学を解説していきます。

ソシュールの言語学を理解できれば、あなたの世界は間違いなく変わります。言葉が世界を作るという「言語論的転回」を一緒に体感しましょう。(ソシュールの概念を覚える必要は一切ありません。理解することが一番重要です。)

2-1: 共時態と通時態

まず、『一般言語学講義』の新しかった点を説明します。『一般言語学講義』が新しかった点は、言語学の対象とは何かをはっきりさせたことです。

「それだけ?」とは言わずに、ソシュールの重要な考えをみてみましょう。

■ ソシュールと「言葉」

先ほども言ったように、ソシュール以前の言語学は歴史的研究をしてきました(あの言葉のこの特徴が、どう変化してきたのか?という研究)

しかしながら、ソシュールは言葉が意味をもつのに、歴史など関係なのではないか?と言います。

つまり、ソシュールは、以下のように考えました。

  • 普通にみんな言葉を話すのに、その言葉が過去どのように使われてきたか、いちいち知らなくても平気
  • 言語の機能を知るするために、歴史はなくてもOK

そのため、言語の時間を2つに区別します。

  • 共時態:歴史を捨てた、ある時点の言語の秩序のこと
  • 通時態:共時態がつぎの共時態へ変化していくこと

このことから、言語学は共時態をまず研究するべき、とソシュールは言いました。

2-2: ランガージュとラング

ソシュールはそれまで漠然と使用されてきた「言葉」という概念を真剣に考えた人でした3以下からは、丸山 圭三郎 (著)『ソシュールの思想』岩波書店を参照。私たちはたくさんの場面で「言葉」を使います。たとえば、以下に提示するものはすべて「言葉」です。

  • 人間を動物から分かつ言語能力
  • 日本語、英語、フランス語といった国語体
  • 個人が瞬間に発する語や文
  • 古今の詩人
  • 作家たちのメディア、音声、抑揚、文体
  • 石碑に刻まれる文

このように、多くの場面で使われる言葉を、まずソシュールは二つに分けました。

それが

  • ランガージュ(langage):人間のもつ普遍的な言語能力・抽象能力およびその諸活動
  • ラング(langue):個別の言語共同体で使用される多種多様な国語体(例:日本語など)

です。

ランガージュは「言語能力」とも訳される言葉で、人類を他の動物から分かつしるしです。

ラングは「言語」と訳すことが可能です。個別社会に見出せるもので、その社会固有の独特な構造をもった制度といえます。



2-3: ラングとパロール

ラングは個別の国語体ですから、ある言語における音声の組み合わせ方、語の作り方、語同士の結びつき方の規則の総体といえるでしょう。

つまり、ラングはその言語を話す人びとに共通の言語規則です。すると、言語の規則と個々人が実際に話す言語行為は異なることがわかります。

そのため、ソシュールは特定の話し手によって発話される具体的音声の連続を、パロール(parole)と名付けました。つまり、パロールは実際に個人が話す言語行為です。

「言語の細かい峻別が何の意味をもつんだ?」と言われそうですが、実際に大変意味のあるものでした。その事例を「言語命名論の否定」からみてみましょう。

2-4: 言語命名論の否定

ソシュール以前の学者は言葉に関して、言語命名論を支持していました。

言語命名論とは、とてもシンプルな主張です。それは、アダムがさまざまな動物を目の前に呼んで名前をつけたもので、事物に関する名称目録があるという考えです。

しかし、言語命名論では言語によって対象の切り取り方が異なることの説明ができません。

試しに、日本語の「水」と英語の「water」を比較してみましょう。

  • 日本語の「水」と英語の「water」に正確な一致はない
  • 英語では形容詞のhotを加えると「hot water」になりますが、日本語では「温かい水」ではなく、「お湯」と表現しなければならないからである
  • つまり、日本語の「水」は冷たい液体を限定的に指すが、英語の「water」は温かくも冷たくもなる

日本語の「水」と英語の「water」は事物ですが、感情も実は言語によって切り取り方が異なります。

仮に感情が人間精神内においてあらかじめ決定されているとしたら、必然なものの一つとして、ある言語の辞項と他の言語の辞項とは正確に一致するはずです。しかし、たとえば、フランス語の「親愛な(cher)」とドイツ語の「愛する、愛しい(lieb, theuer)」に正確な一致はありません。

このように、ソシュールが指摘したのは、世界ははじめから個別の事物があるのではなく、言葉によって世界の区切り方は異なるという点です。

ふつう日本人は、世界が「山」「川」「犬」などの事物からできあがっていると信じています。しかし、それは日本語を使うからです。

フランス語や先住民の言語を使って生きると、世界は別々に区分されることがわかります。

  • 言葉がなにを指して、なにを意味するかは、物質世界のあり方と独立し、言語システムの内部で決まっている
  • そのような言語世界は社会的・文化的なものである

2-4: 差異から発生する言語の意味

言語命名論の否定を図式化してみましょう。ソシュール以前の考えでは、まず事物があり、それから意味があります。

丸山圭三郎の『ソシュールの思想』 (岩波書店) は、その点を以下のような図式から説明しています。

ソシュールの思想』(1981)から引用

しかし、ソシュールは真の図式はa—b—cであり、事物に基づく*—aといった実際の関係は成り立たないと考えました個々の価値は、対立関係から生まれるからです。

■ 言語の中には対立関係しかない

言語の価値が対立から決定されることを説明した、ある例をみていきましょう。唐突ですが、箱の中に入ってる饅頭と、同じ大きさの箱に同じ数の圧搾空気の風船のイメージをしてみましょう(下の図)。

構造言語学とはなにか?ソシュールの思想』(1981)から引用

饅頭の場合(ABCDと書かれた方の図)

  • その中から一つを取り出して外においても、空隙が残されるだけ
  • 箱の中の他の関係は変わらない
  • 外に取り出された饅頭も一定の大きさ、一定の実体を保つ

圧搾空気の風船の場合(狼、犬、山犬、野犬と書かれた方の図)

  • 箱の中でしか、また他の風船との圧力関係においてしか、その大きさはない
  • もしもその中の風船を一つ外に出すと、パンクして存在はなくなる
  • 残した穴は、他の風船が膨れ上がって空隙を埋めてしまう

丸山によれば、ソシュールの考えていた体系はこの対立関係です。

つまり、ソシュールの考えた言語体系とは、

  • 個々の実体や意味は、もともと存在しない
  • あるのは、隣接項との対立関係だけ
  • その対立関係から意味は生まれる

といったものでした。

たとえば、日本語には「あいうえお」という母音の区別があります。

  • それらはお互いが対立関係にあるから「あいうえお」となる
  • 「あ」という音を説明するのにためには、「いうえお」でない、という関係をもってしか説明できない



2-5: シニフィアンとシニフィエ

言葉には二つの側面がある、とソシュールはいいます。

  • シニフィアン・・・言葉が音として成り立つ側面を指す。たとえば、「猫」という単語は、/neko/と発音しないとその単語にならない
  • シニフィエ・・・言葉が意味をもつという側面を指す。たとえば、「猫」という単語なら、「にゃんにゃんと甘える生き物」と考えが私たちの頭の中にうかぶ

そして、シニフィアンとシニフィエが結びつくことで「記号」が生まれます。重要な点は、シニフィエとシニフィアンの結びつきは恣意的だということです。

たとえば、「たばこ」という音のつながりが、たばこという内容を指す必然性はなにもないです。シニフィエとシニフィアンは「たまたま今はそのように」結びついているのです。

いかかですか?ソシュールの言語学は理解することはできましたか?

これまでの内容をまとめます。

2章のまとめ
  • 言葉がなにを指して、なにを意味するかは、物質世界のあり方と独立し、言語システムの内部で決まっていること
  • 個々の実体や意味は、対立関係から生まれること
  • シニフィエとシニフィアンの結びつきは恣意的であること

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3章: 構造言語学(ソシュール)と構造主義の関係

最後に、構造言語学(ソシュール)と構造主義との関係を簡潔に解説します。

さっそく簡潔にソシュールと構造主義の関係をいうと、構造主義の生みの親といわれる人類学者のレヴィ=ストロースは、ソシュールの言語理論を人間社会に導入したといえます。

その一例として、ソシュールのラングとパロールをみてみましょう。

ラングはその言語を話す人びとに共通の言語規則で、パロールは実際に個人が話す言語行為でしたね。

レヴィ=ストロースは、ラングとパロールを人間社会に大胆に導入しました。すると、以下のようになります。

  • ラング=社会構造・・・さまざまな規範、宗教観念、価値観、慣習といった意識されるものの背後にあるより深い実在、それらのものの真の動機付けや条件)
  • パロール=具体的な人間の行為・・・レヴィ=ストロースが「社会関係の束」と呼ぶもの。現実に存在する具体的な、直接観察される現象的データ)

このように、ソシュールの方法論は、社会における意識的現象(パロール)から無意識の潜在社会構造(ラング)へ探求を可能にしたのです。

構造主義についてもっと知りたいという方は、以下の記事を参照ください。

構造主義とは
【構造主義とは】その定義から実存主義との論争までわかりやすく解説構造主義とは人間の社会的・文化的現象の背後には目に見えない構造があると考える思想です。構造主義の海の親はフランス人文化人類学者のレヴィ=ストロースです。この記事では彼の考えから構造主義の特徴まで解説しています。...

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4章: 構造言語学とソシュールを知るための書籍リスト

どうでしょう?構造言語学とソシュールに関する理解を深めることはできましたか?

この記事ではソシュールの言語学に関して解説しましたが、カバーできた内容はその一部に過ぎません。これから紹介する書籍を参考に、ぜひあなたの学ぶに役立ててください。

おすすめ書籍

丸山 圭三郎『ソシュールの思想』 (岩波書店) 

この記事でもたくさん参照した本です。とても分かりやすく、ソシュールの思想を解説しています。手元に置いておく価値がある教科書的な本です。

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橋爪 大三郎『はじめての構造主義』 (講談社現代新書) 

この記事で参照した本の一つです。ソシュールの思想を解説だけでなく、構造主義についてわかりやすく解説してます。構造主義は現代思想の基礎ですので、ソシュールとともに学びたい人にはぴったりの一冊です。

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ロマン・ヤコブソン『ヤコブソン・セレクション』 (平凡社ライブラリー) 

構造言語学をさらに発展させたプラハ学派のヤコブソンの論集。レヴィ=ストロースに多大な影響を与えたヤコブソンの論考は、構造主義を真剣に学びたいと考える人に必須です。

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まとめ

最後に、この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ
  • 構造言語学とは構造や体系を重要と考える言語学の立場
  • ソシュールは人間と言語の深い関係を解明しようとする学問を言語学を創造
  • ソシュールは構造主義の誕生に多大な影響を与えた

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